大谷八朔は独り言が大きい

読者は自分です

3部作 悪童日記、ふたりの証拠、第三の嘘 作:アゴタ・クリストフ

心が震える作品。

ハンガリーから亡命した女性作者が己の過去の傷をえぐり、魂を絞って書き上げた、そんな作品。

舞台は占領されるハンガリーの片田舎。

親に残された二人の子供が意地悪ばあさんと生活をしている。

その文章の端的さ、描かれる主人公は自分の正義を明確に持ち、情よりも正義を自身の信じることを尊ぶその合理性。

そこには村上春樹の主人公のような姿を感じさせる。

愛に生き、ただ愛の定義が人と違うために人に理解されない、そんなことは構いもしない、そんな主人公に凡人たる僕らは憧れ惹きつけられる。

1部目である悪童日記はそれでよかった。

でも2部目、3部目のふたりの証拠、第三の嘘。

これらはなかなか曲者だ。

そこにあるのは矛盾、あるいは付け足しの刃のようんちぐはぐさ。

決してパーフェクトな小説ではない、むしろ続編としてはお粗末さが目立ち、1部目のインパクトだけの作品のように感じるかもしれない。

それでも僕はこの作品群が好きだ。

そこには作者であるクリストフの生き様が見える。

自身のコンプレックスを作品に昇華する姿勢が見える。

それが金のためでも、苦しみながら書いていても構わない。

いや、だからこそ、より愛を持って作品を読むことが出来る。