大谷八朔は独り言が大きい

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貧乏人の経済学 もういちど貧困問題を根っこから考える / Poor Economics a Radical Rethinking of the Way to Fight Global Proverty (著:A・Vバナジー&デュフロ)

貧乏人の経済学 もういちど貧困問題を根っこから考える / Poor Economics a Radical Rethinking of the Way to Fight Global Proverty (著:A・Vバナジー&デュフロ)

 

この本はMITのバナジーとデュフロが経済開発と貧困問題に長年取り組み、医農薬の世界では当然のように使用されてきた「ランダム化対象試行」を用いて、様々な角度から貧困の問題を分析し、一般向けに著している。

 

貧困になぜなるのか、貧困からなぜ抜け出せないのか。

ある人は貧困を打ち破る土台がないためだと言い、ある人は援助に甘えてしまい能力開発を怠るせいだと言う。

どちらの主張も人々の経験してきたストーリーによって信憑性を持つようにも感じられる。

こういったことは主観で考察される学問にはよくある。

 

実際のところ、どちらが正しく、あるいはどちらも正しくないのか。

 

ランダム化対象試行とは、条件の近い村々、あるいは1つの村の中で対象を2分することによって、属性差をなるべく揃え、実験をし、その有意差を見ることだ。

 

そういった試行を健康・補助金・家族計画・保険・金融・貯蓄・企業・政治(選挙)の切り口で繰り返し、得られた知見がこの本には詰まっている。

 

それらの結果は非常に面白く、人間味があり、貧乏人とは貧乏人の合理性にしたがって生きている結果であることが浮かび上がってくる。

その合理性を読み解くとき、心理学的分析結果を読んでいる気分になる。

かれらの行動を通してその心理と行動を的確に説明するためには、ダニエル・カーニマンの「ファスト&スロー」などを事前に読んでおくととなお良いかもしれない。

 

 

 

貧困の人は愚かで怠惰なのだろうか、そのためいくら援助しても貧困はなくならないのだろうか?

その答えは難しく、一概に言えることではない。

ただ人は「希望」をどの程度持てるかをベースに行動することを本書は明らかにする。

例えば、牛3頭を育てて売る貧民に安くお金を貸して、牛6頭を育てさせ、上回ったお金をさらに投資して貧困を脱することが出来るだろうか?

答えはYesでありNoだ。

牛3頭なら一人でも面倒をみられる、でも6頭なら人を雇わないといけない、そういう状況であった場合、固定費をあげて失敗すれば貧乏人には後がなくなる。

そういったリスクを投資してまで背負う必要があるのか。

また6頭を育てられるようになったとしても、貧困のレベルが少しましになった程度で貧困のままであり何も変わらない、ならば現状維持でも良いのではないか。

人はそう考える、実に合理的に。

 

人々がリスクを取るとき、それは「安定」が身近にある時だ。

例えば農村の若者は都市に出稼ぎにいくが2~3か月働いたら地元に戻り、また都市に働きにいくことを繰り返す。

若者が都市で働き続けるためには安定した職が必要だ。

それがないために不安定に移動し続ける。

例えばこんなデータがある。

一族のうち誰かが都市で安定した働き口をもち暮らせる環境を持つと、こぞってその一族が都市に集まりだす。

それは拠点を持ち、安定が確保されているからだ。

そうやって助け合い、人々は貧困を抜け出していく。

この実験結果に貧困の解決策が隠れている気がする。

人が冒険をするとき、それはどこかに「安定」な拠り所があるときだ。

でも全員が冒険をできるわけじゃない、これはミクロな貧困を解決する方法論でありマクロな貧困を解決する方法論ではない。

今は答えは出ない、しかしいつかたどり着くだろう、貧困が絶滅した未来へ。